労働基準法とは、労働者の健康と安全を守るため、労働時間に関するさまざまな規定を設けています。
本記事では労働基準法が定める残業時間から、残業時間を超えた場合の罰則やその対策、適切な管理方法まで詳しく解説しています。
1.労働基準法が定める残業の定義と基本ルール
労働基準法が定める残業の定義や基本的なルールは次の通りです。
1.1 法定労働時間と残業の定義
労働基準法では、1日の法定労働時間は8時間、1週間の法定労働時間は40時間と定められています。これは、労働者が健康を維持し、生活に必要な休息時間を確保するための最低基準です。
この最低基準を超えてしまう場合には、残業、時間外労働といわれます。
1.2 36協定の必要性と締結方法
時間外労働は原則として禁止されているものの、36協定と呼ばれる労使協定を締結することで時間外労働が認められます。労働基準監督署に届出が必要で、時間外労働となる場合には割増賃金の支払いが発生します。
2019年4月1日からは時間外労働の上限規制が強化され、上限が原則として月45時間、年360時間となりました。
1.3 割増賃金の計算方法と割増賃金率
計算方法は以下の手順で行います。
step1.労働時間の記録
タイムカードや勤怠管理システムなどを活用して日々の始業、労働時間を正確に記録する
step2.労働時間の集計
1ヶ月分の労働時間を種類別(法定内、法定外残業、深夜、休日など)に区分する
step3.割増賃金の計算
集計した労働時間に対して、それぞれの区分に応じた割増率を適用して割増賃金を計算する
時間外労働は25%以上、深夜労働は25%、休日労働は35%以上の割増賃金が必要です。
1.4 月60時間超の残業に対する割増率の変更
労働基準法の改訂により企業は、月60時間を超える残業に対して、割増率が50%以上に変更されました。
これは、長時間労働の抑制と労働者の健康保護を目的としています。近年の長時間労働による健康被害や労働生産性の低下といった社会問題が起こった結果、働き方改革の一環として、労働時間の上限規制や残業時間の削減が求められています。
2.残業規制違反のリスクと罰則
では、残業規則に違反した際にはどのようなリスクと罰則があるのでしょうか。
以下で詳しく解説します。
2.1 労働基準監督署の立ち入り調査
労働基準法違反の疑いがある場合には、立ち入り調査も実施されます。
主に調査されることは以下の項目です。
労働時間に関する書類:タイムカード、勤務表、残業時間の記録など
賃金に関する書類:給与明細、残業代の計算根拠など
労働条件に関する書類:労働時間、賃金、休日、休暇に関する内容など
就業規則:労働時間、休日、休暇、残業に関する規定など
これらの資料に不備や矛盾点があった場合は、残業規制違反の疑いが強まり、従業員への聞き取り調査が行われます。
立ち入り調査の結果、法令違反が認められた場合には「是正勧告書」が交付されます。
是正勧告の内容は以下の通りです。
・未払い賃金
・法定労働時間の超過
・36協定の未締結
・就業規則の未作成
・残業時間の記録不備
・最低賃金以下の時給設定
など
2.2 罰金や懲役などの法的制裁
是正勧告は行政指導の一種であり、行政指導そのものに強制力はありません。
応じるか否かも企業は自由ですが、従わなかったり、重大な違反の場合は6ヶ月以下の懲役、または30万円以下の罰金などの罰則が科される可能性があります。
主に科される法的制裁は次のようなものが挙げられます。
・業務停止命令
・営業許可の取り消し
・罰金
行政処分は刑事罰とは異なり、犯罪の成立を前提としていません。
しかし是正勧告に従わない企業や個人に対して、その事実を公表できるため、従わなかった場合には、経済的な損失や社会的信用の失墜につながることから深刻な影響を与える可能性があります。
3.経営者が取るべき残業削減の対策
残業削減の対策として経営者が取るべき方法は以下の通りです。
3.1 業務効率化と人員配置の見直し
主な取り組みとしては、次のようなことが効果的です。
・不要な業務の廃止や、標準化、自動化など業務プロセスの改善
・クラウドサービスやコミュニケーションツールなどの導入
・目的を明確にし、課題を絞ることで時間配分の徹底で無駄な会議時間の削減
他にも業務効率化と合わせて、人員配置を見直すことにより従業員のモチベーション向上にもつながり、残業削減に取り組む上で非常に効果的な対策です。
人員配置の見直しをする際には、次のような項目に合わせて検討すると良いでしょう。
・スキルや経験に基づいた配置
・担当業務を明確化し、役割分担を徹底する
・専門性の高い業務や負荷の高い業務は外部企業に委託するアウトソーシング
3.2 ノー残業デーの導入や意識改革
「ノー残業デー」は、週に1日または数日を定め、原則として残業を禁止する制度のことを指します。従業員の意識改革は残業削減を成功させるために不可欠です。従業員に「残業は当たり前ではない」という意識を根付かせ、効率的な働き方を促す必要があるでしょう。
具体的な取り組みとしては、次の通りです。
・残業時間の可視化
従業員に自分自身の残業時間を可視化することで現状を認識させることができます。
・残業削減の目標設定
チームや個人で残業削減の目標を設定することで意識改革を促進できます。
・効率的な業務方法の共有
効率的な業務方法を共有して、従業員間のスキル向上を図ります。
・ワークライフバランスの重要性の啓蒙
ワークライフバランスの重要性を啓蒙することにより、従業員のモチベーション向上、残業削減につなげます。
定期的なノー残業デーの設定や、従業員の意識改革を通じて残業削減の文化を醸成していきましょう。
4.残業時間管理の具体的な方法
ここでは、残業時間の具体的な管理方法について解説します。
4.1 タイムカードやクラウドシステムによる記録
タイムカードやクラウドシステムによる記録は、従業員の労働時間や休憩時間などを正確に記録することができます。
タイムカードの場合は、従業員が出勤時と退勤時にカードを機械に通すことで労働時間を記録できるシステムです。導入コストが安く、操作も簡単ですが紙ベースのタイムカードの場合はデータ管理が煩雑になり、これまでと変わらない可能性もあります。
項目 |
タイムカード |
クラウドシステム |
導入コスト |
安価 |
高価(初期費用など) |
操作の容易さ |
簡単 |
簡単 |
精度 |
不正確な可能性もある |
より正確 |
データ管理 |
煩雑 |
容易 |
セキュリティ |
脆弱 |
強化 |
4.2 勤怠管理システムの活用メリット
勤怠管理システムの導入は、客観的に各記録を管理できるため、残業時間の発生状況を正確に把握することができます。
他にも次のような活用メリットがあります。
・労働時間管理の可視化、残業時間の上限規制など法令遵守の徹底
・人事評価への活用と勤怠データの分析など、人事労務管理の効率化
・ペーパーレスや、業務効率化によるコストの削減
勤怠管理システムを導入することで、従業員のモチベーションを向上させ、企業の競争力向上にもなるのです。
5.残業時間の管理は社会保険労務士に任せるのも方法の1つ
社会保険労務士(以下、社労士)は労働基準法、労働時間法、働き方改革関連法などの労働時間管理に関する法令に精通しています。
5.1 社労士の役割と支援内容
企業が労働基準法などの法令を遵守し、違法な残業を防止するために、次のようなサポートが提供可能です。
・就業規則の作成、見直し
・36協定の締結や変更
・労働時間管理に関するアドバイス
・業務プロセスの改善
・時間管理の研修
・フレックスタイム制の導入
すなわち、社労士に任せると適切な労働時間管理を行い、労働時間に関するトラブル回避を期待できるのです。
6.まとめ
残業時間や労働時間の管理は、管理の仕方を間違えてしまうと取りこぼしが発生してしまいトラブルに発展する可能性も少なくありません。そのためにも、社会保険労務士と連携することにより、法令遵守を徹底し、従業員の働き方改革を推進し、働きがいのある職場環境を構築していくことが求められるのです。
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