助成金を申請したいけれど、「どんな書類を用意すればいいのか分からない」と悩む方は少なくありません。
この記事では、よく使われる助成金に共通する書類一覧と、スムーズに準備するための実務的なコツを解説します。不支給を避け、確実な申請を目指すための知識を整理してお伝えします。
助成金申請で必要な書類とは?準備の第一歩を理解しよう

助成金申請で求められる書類の役割
助成金を受け取るには、申請に必要な各種書類を正確にそろえることが前提となります。これらの書類は、申請者の労務管理や雇用実態が、助成金制度の支給要件に適合しているかどうかを判断する材料です。単なる形式上の添付物ではなく、企業の制度運用と法令順守を証明する“根拠資料”として扱われます。
たとえば、「就業規則」や「賃金台帳」は、実際に制度が整備され、賃金支払いが行われていることを示す基本資料です。その他、雇用契約書や勤怠記録、研修の実施記録なども助成金の種類に応じて提出が求められます。
書類の信頼性が低いと、申請者の管理体制や法令遵守への姿勢そのものが疑われ、助成金の不支給や差戻しの対象になることもあります。
書類が不備だと何が起こるのか
助成金申請において書類が不備だと、最も大きな影響は「支給遅延」や「不支給決定」です。申請窓口での確認時に、記載漏れや添付書類の不足があると、差戻しの対象になります。さらに、再提出のタイミング次第では、申請期間を過ぎてしまい、受付そのものができなくなるリスクもあります。
よくある不備は以下になります。
- 提出書類の様式が古く、最新のフォーマットでない
- 労働条件通知書と就業規則の内容に矛盾がある
- 勤怠記録と給与明細の日数が一致しない
- 手書きの書類で読みにくく、判別が困難
- 添付資料の一部が抜けている、もしくは見当たらない
これらの不備を防ぐためには、事前に提出書類の内容・記載項目・提出様式を丁寧に確認し、ダブルチェック体制を整えることが重要です。
書類準備に着手するタイミングとは
助成金の申請準備は、対象となる取り組み(正社員転換や研修実施など)を「開始する前」から始めることが理想的です。多くの助成金制度では、「実施前の計画書」や「事前届出」が必要とされており、実績発生後に書類を整えようとしても間に合わない場合があります。
特に注意すべきなのは、次のようなケースです。
- 正社員転換を行った後に助成金の存在を知った
- 育児休業の申請書類を出したが控えを取っていない
- 研修記録を手書きで作成し、紛失してしまった
このような状況を避けるためには、「助成金の活用予定がある業務」に取りかかる前に、必要書類や準備フローを確認し、可能であれば事前に専門家に相談することが望まれます。
よく使われる助成金で必要な書類一覧
まずは、助成金申請に共通して求められる書類と代表的な助成金ごとの主な提出書類を一覧表で確認しましょう。
こちらの内容はあくまでも一例で、助成金の内容、地域によって内容が異なる可能性はあります。
助成金申請に共通して求められる書類一覧表
書類名 |
内容の説明 |
注意点 |
助成金支給申請書 |
助成金申請時に所定の様式で作成するメインの提出書類 |
制度ごとに書式が異なるため、最新版を使用すること |
雇用契約書 |
労働条件・雇用形態の取り決めを記載した文書 |
契約期間・賃金・職務内容が明記されているか確認すること |
労働条件通知書 |
採用時に労働者へ交付する労働条件の書面 |
実際の就労条件と相違がないかをチェック |
賃金台帳 |
賃金支払状況を記録した帳簿 |
対象期間の記録が正確であることが求められる |
出勤簿 |
労働者の勤怠状況を示す記録(タイムカード等) |
手書き・システムいずれでも可。打刻時刻の明瞭性が重要 |
就業規則・賃金規程 |
社内の労働ルールや賃金体系を定めた文書 |
労基署への届出が済んでいる最新のものを用意すること |
労働者名簿 |
労働者ごとの氏名・生年月日・雇用日などを記載した名簿 |
法定事項が記載されているか確認する |
実施記録(証明資料) |
正社員転換・研修実施などの施策を裏付ける証明書類 |
写真・報告書・通知書など、客観的に証明できる形式で用意 |
助成金別・提出書類一覧表
助成金名 |
主な提出書類(例) |
備考・注意点 |
キャリアアップ助成金 |
支給申請書、キャリアアップ計画書、転換前後の雇用契約書、労働条件通知書の写し、転換辞令、就業規則・賃金規程、出勤簿、賃金台帳 |
正社員化コースや賃金規定等改定コースで異なる書類が必要になることがある |
両立支援等助成金 |
支給申請書、育児休業取得申出書、育児休業中の出勤簿・賃金台帳、就業規則・育児休業規程、代替要員雇用契約書、育児復職支援プランの写し |
休業の実施・復帰を証明する資料が重要 |
人材開発支援助成金 |
支給申請書、訓練実施計画書、訓練カリキュラム・日報、講師資料、修了証、出席簿(タイムスタンプ付)、賃金台帳、外部委託契約書・請求書など(外部講師を利用する場合) |
OJTかOFF-JTかで異なる書類が発生する |
以下では、表で紹介した主な助成金ごとの必要書類について、書類ごとの役割やよくある不備、準備時の注意点などを詳しく解説します。
以下の内容はあくまでも一例で、地域・申請する助成金・対象者等の諸条件により異なる場合があります。
キャリアアップ助成金の提出書類と準備のポイント
キャリアアップ助成金では、非正規社員の正社員化や処遇改善の取り組みが申請対象です。以下のような書類が求められます。
- キャリアアップ計画書(事前提出):制度開始前に労働局へ提出が必要。日付の記載ミスや署名漏れに注意しましょう。
- 雇用契約書・労働条件通知書(転換前後):契約更新履歴も含めて、変更内容が明確に分かるように時系列順に整理しましょう。
- 就業規則・賃金規程の写し:正社員向け規程と非正規雇用者の規程が整合しているか確認しましょう。
- 出勤簿・賃金台帳:転換後の労働時間・賃金の増加が確認できるようにしましょう。
- 転換通知書または辞令:口頭やメール通知のみではなく、書面で明確に残しておくことが重要です。
両立支援等助成金の提出書類と申請上の注意点
育児や介護の両立支援制度の実施・活用を支援する助成金です。実績証明が中心となるため、以下の書類に注意が必要です。
- 育児休業申出書・実施証明書:労働者の署名入りで休業の開始・終了日が明記されていることが必須です。
- 就業規則・育児休業に関する規程:制度整備の証明書類。最新版の規程を提出する必要があります。
- 出勤簿・賃金台帳(育休中):無給期間や支給があった場合の記録に不備があると差し戻されることもあります。
- 代替要員雇用契約書:「代替要員加算」を申請する場合は、雇用形態・就業期間の記載が明確な契約書が必要です。
- 復職支援プラン:制度導入だけでなく、復帰後のフォロー内容を示すことで加点評価が得られる場合もあります。
人材開発支援助成金の提出書類と実務での準備法
スキルアップや研修の実施に関連した助成金であり、訓練の「計画性」と「実施状況」が審査されます。
- 訓練実施計画書・訓練カリキュラム:対象者や研修内容、実施日程、講師情報を正確に記載しましょう。
- 研修日報・出席簿:OJT・OFF-JTともに、出席者の確認とタイムスタンプの整合性が見られます。
- 賃金台帳(研修時の賃金支給確認):研修時間中の賃金支給有無によって助成額が変わるため、該当時間を明確にしましょう。
- 講師資料・修了証:外部講師を利用した場合、業務委託契約書や請求書も必須資料になります。
- 受講報告書やアンケート:実施の証拠として、研修の効果を示す補助資料を提出できると安心です。
スムーズに書類を準備する3つのコツ
社内で書類の保管体制を整える
申請に必要な書類は、バラバラのフォルダや紙で保存していると管理が煩雑になります。社内での保管ルールや電子管理の仕組みを整えておくことが、書類準備の効率化につながります。
- 書類種別ごとのフォルダ整理(電子・紙の両方)
- クラウドストレージの活用(Google Drive、Dropboxなど)
- テンプレートの統一(申請ごとに形式がバラつかないように)
- 人事・労務・経理が共通管理するルール作成
助成金は毎年制度が変わるため、最新の提出様式を常に使えるようにする運用ルールも重要です。
就業規則や契約書と整合性を保つ
書類の不備として多く見られるのが、各資料間の矛盾です。たとえば就業規則の賃金規程と雇用契約書の給与額が違う、出勤簿と賃金台帳の日数が一致しないなど、細かい不整合が審査の妨げになります。
事前に関連する書類同士を照合し、記載内容が矛盾していないか確認しておくと、差し戻しのリスクを下げられます。
社労士など外部の専門家を活用する
社内で申請書類の作成・整理を完結させるのが難しい場合は、助成金申請に詳しい社労士に相談するのも一つの方法です。提出様式の記入や、根拠書類との整合性確認などを支援してもらえます。
初回相談や書類チェックはスポット対応も可能なケースが多く、助成金の採択率を上げたい企業にとっては有効な手段となります。
書類提出でありがちなトラブルと対策

記入漏れ・添付忘れによる差し戻し
申請書に記入漏れがあると、助成金の審査に進めず、差し戻されるケースが少なくありません。特に、チェックボックスの見落としや、署名・押印の不足といった形式的なミスが多く報告されています。
再提出には時間がかかるため、提出前には第三者による確認を必ず行いましょう。
手書き・電子書類の形式ミス
最近では電子申請が進んでいますが、依然として紙での提出を求める制度もあります。電子書類の場合は「PDF形式であること」「パスワードを付けない」などの条件があるため、提出先の指定に注意が必要です。
手書きで提出する場合は、読みやすさや訂正印の有無なども確認しておきましょう。
証拠書類の整合性不足(勤怠・賃金など)
助成金申請で特に重視されるのが、実態を示す「勤怠記録」や「賃金台帳」の整合性です。記録があいまいな場合や、紙のメモレベルで保存されていると、信頼性が低く判断されます。
できる限りデジタルでの記録管理を行い、誰が見てもわかりやすい形式で提出できるよう準備しましょう。
様式の古いまま提出してしまう
助成金の様式は毎年度変更されることがあります。最新の書類様式でないと、受理されない可能性もあるため注意が必要です。
以下のような手順で様式更新を管理しましょう。
- 制度の申請サイトを定期的に確認する
- 提出前に最新様式かどうかをチェックする
- ファイル名に年度・バージョンを記録して管理する
- 古い様式はアーカイブし、混同を防ぐようにする
常に最新情報を取り入れるために、厚生労働省やe-Govの公式サイトをブックマークしておくと便利です。
締切間際での慌ただしい対応によるミス
締切直前になってから書類をそろえようとすると、記載ミスや添付漏れが起きやすくなります。余裕を持ったスケジュールを設定し、提出期限の1週間前には完成している状態が望ましいです。
定期的に進捗をチェックし、関係者とスケジュールを共有することで、余裕ある対応が可能になります。
申請書類の入手と提出方法
提出様式の入手先(厚生労働省・e-Govなど)
助成金の申請様式は、主に以下の公的サイトから入手できます。
- 厚生労働省の公式ページ(制度別にPDFやWord形式で提供)
- e-Gov(電子政府の総合窓口、オンライン申請に対応)
- 各都道府県労働局のホームページ(地域限定助成金もあり)
信頼性の高い情報源を活用し、書類の最新版を入手してください。
提出先の確認と問い合わせ方法
提出先は、助成金の種類によって異なりますが、多くは都道府県労働局の雇用環境・均等部(課)、管轄のハローワークや外部事務センターなどです。
提出先や手続きに関して不明点がある場合は、以下の方法で問い合わせが可能です。
- 労働局・ハローワークへ電話相談
- 厚生労働省のQ&Aページや制度窓口に確認
- 社労士事務所へのスポット相談を活用
【参考】都道府県労働局一覧(厚生労働省)
まとめ
助成金申請では、書類の正確さと整合性が何より重要です。雇用契約書や出勤簿といった基本的な書類から、制度ごとの追加資料まで、必要な書類を把握して準備することが採択への第一歩となります。
本記事で紹介したように、準備するのが遅かったり、様式が古かったりするだけで不支給につながるリスクがあります。自社での対応が難しい場合は、社労士など専門家に相談するのも有効な手段です。
助成金は正しく準備すれば、企業の制度づくりや雇用支援に活かせる心強い資源です。適切な書類管理と準備をし、ぜひ制度を有効活用してください。