就業規則の作成や見直しに頭を悩ませていないでしょうか。多くの企業が法令遵守と従業員満足の両立に苦心しているでしょう。そんなときに活用したいのが、厚生労働省が公表しているモデル就業規則です。
モデル就業規則は企業が適切な就業規則を作成するための参考資料です。厚生労働省が示した法令に準拠した標準的な就業規則のひな形であり、企業が自社の実情に応じた規則を整備する際の指針となります。
ただし、「本規則はあくまでモデル例であり、就業規則の内容は事業場の実態に合ったものとしなければなりません。したがって、就業規則の作成に当たっては、各事業場で労働時間、賃金などの内容を十分検討するようにしてください。 」と厚生労働省がモデル就業規則内に記載しており、注意が必要です。
https://www.mhlw.go.jp/content/001018385.pdf
そこで本記事では、モデル就業規則の概要や使用上の注意点、さらにはテンプレートの活用方法までご紹介します。
就業規則の作成や変更を検討している場合は、ぜひ参考にしてください。
就業規則に必ず必要な内容
就業規則は、労働条件の基準を明確にし、労使間のトラブルを防ぐ役割があります。厚生労働省が定めるモデル就業規則はに基づき、必ず盛り込むべき内容を解説していきます。
労働時間関係
労働時間に関する規定は、従業員の健康と生活の質を守るために欠かせません。具体的には、以下の項目を定める必要があります。
- 始業・終業時刻
- 休憩時間の長さと取得方法
- 所定労働時間
- 休日の種類と日数
- 時間外労働や休日労働の取り扱い
- 年次有給休暇の付与日数と取得方法
たとえば、「1日の所定労働時間は8時間とし、始業時刻は午前9時、終業時刻は午後6時とする」などです。また、変形労働時間制を採用する場合は、その旨を明記しましょう。
フレックスタイム制を導入する場合は、コアタイムの設定や清算期間の明示が必要です。テレワークを推進する企業では、在宅勤務時の労働時間管理や通信費の負担について明確にする必要があるでしょう。
労働時間の管理は、従業員の健康維持と生産性向上の両面で重要です。過重労働を防ぐため、時間外労働の上限規制や、勤務間インターバル制度の導入なども検討しましょう。
また、有給休暇の取得促進策や、長時間労働者への医師による面接指導の実施なども盛り込むとよいでしょう。
近年では、副業・兼業を認める企業も増えています。これを認める場合は、就業規則に明記し、許可申請の手続きや禁止される業務内容などを具体的に示すことが大切です。
賃金関係
賃金に関する規定は、従業員のモチベーションに直結する項目です。そのため、以下の内容を明確に定めてください。
- 賃金の決定方法(月給制、日給制、時給制など)
- 賃金の計算期間と支払日
- 昇給や降給の条件
- 賞与の有無と支給基準
- 時間外労働や休日労働の割増賃金率
- 退職金の有無と計算方法
たとえば、「賃金は毎月末日に締め切り、翌月15日に支給」といった具合です。また、最低賃金法を遵守することも明記してください。
さらに、基本給だけでなく、各種手当の支給基準も明確にしましょう。特に残業手当や休日出勤手当は労働基準法に基づいた割増率を適用することが重要です。
成果主義を取り入れる場合は、評価基準と賃金への反映方法を明確にしましょう。また、同一労働同一賃金の原則に基づき、正社員と非正規社員の待遇差についても合理的な説明ができるよう整備することが求められます。
賞与や退職金の支給基準も、可能な限り具体的に記載しましょう。これにより、従業員の将来設計がしやすくなり、長期的な就労意欲の向上にもつながります。
退職関係
退職に関する規定は、円滑な人事異動と労使関係の維持に不可欠なので、以下の項目を明確にしましょう。
- 定年制の有無と年齢
- 退職の種類(自己都合、会社都合、合意退職など)
- 退職手続きの方法と期限
- 解雇の事由と手続き
- 退職後の競業避止義務や秘密保持義務
具体的には「自己都合による退職の場合、原則として1か月前までに届け出るものとする」などです。また、解雇に関しては労働基準法に基づく制限があることにも注意が必要です。
自己都合退職と会社都合退職の違いも明確にし、それぞれの場合の手続きや退職金の取り扱いを詳細に記載することが望ましいです。
さらに、退職に関する規定では、円滑な業務引継ぎを確保するための手続きも必要です。たとえば、「退職予定日の1か月前までに引継ぎ書類を作成し、上司の承認を得る」といった具体的なプロセスを定めるとよいでしょう。
加えて定年後の再雇用制度についても触れおいてください。これは高年齢者雇用安定法に基づき、65歳までの雇用確保措置を講じる必要があるからです。
再雇用時の労働条件や職務内容の変更可能性についても明確にしておくことで、スムーズな人事管理が可能になります。
就業規則に定めておいたほうがいい内容
就業規則には法定事項に加え、円滑な職場運営に欠かせない項目を盛り込むことで、従業員の権利を守り、会社の発展にもつながります。ここからは、就業規則の規定で推奨される内容を解説します。
臨時の賃金・最低賃金額関係
臨時の賃金や最低賃金に関する規定は、従業員の生活保障につながります。以下の点を明確にしましょう。
- 臨時の賃金(賞与など)の支給条件と金額
- 最低賃金の保証
- 昇給や降給の基準
具体的な案として「賞与は年2回、6月と12月に支給し、支給額は会社の業績と個人の評価に基づき決定」などと定めてみてください。また、最低賃金は地域別最低賃金を下回らないよう注意が必要です。
これらの規定は、できるだけ分かりやすい言葉で記載し、必要に応じて具体例を示すなど、誰もが理解しやすい内容にすることがポイントです。賃金制度の透明性を高めることで、従業員のモチベーション向上にもつながります。
費用負担関係
業務に関連する費用の負担について明確にすることで、トラブルを防ぎます。以下の点を規定しましょう。
- 出張旅費の計算方法と支給基準
- 通勤手当の支給基準
- 業務用品の支給または購入費用の負担
- 研修費用の負担
「通勤手当は実費支給とし、上限は月額3万円とする」など、賃金以外の規定を定めてみてください。テレワークの場合は、通信費負担なども明記するとよいでしょう。
特にIT企業では、情報セキュリティに関する費用負担の規定が詳細になる場合があります。そのため、自社の特性を反映させることが大切です。また、近年増加している副業・兼業に関する費用負担の取り扱いも検討しましょう。
安全衛生関係
従業員の安全と健康を守ることは、企業の重要な責務です。そこで、以下の点を規定しましょう。
- 定期健康診断の実施
- 安全衛生教育の実施
- 職場の安全点検の実施
- メンタルヘルスケアの取り組み
「年1回の定期健康診断を全従業員に実施し、その費用は会社が負担」と具体的に安全衛生について定めましょう。また、ストレスチェックの実施なども盛り込むと従業員も安心できます。
ほかにも製造業では安全衛生関係の規定が特に重要なので、業種に応じた適切な内容を選択しましょう。近年では、長時間労働対策やハラスメント防止策なども重要な項目となっています。
職業訓練関係
従業員のスキルアップは、会社の成長にも直結します。具体的には、以下の点を明記しましょう。
- 新入社員研修の内容と期間
- OJTの実施方法
- 外部研修への参加支援
- 資格取得支援制度
「業務に必要な資格取得費用の半額を会社が負担」と会社側が負担するのか、負担する際はどの程度までなのかを記載します。また、研修参加時の勤務扱いについても明確にしておきましょう。
人材育成に力を入れる企業では、キャリアパスの明確化や自己啓発支援制度なども盛り込むのも一案です。
災害補償・業務外の傷病扶助関係
従業員が安心して働ける環境づくりのため、以下の点を規定しましょう。
- 労災保険の適用範囲
- 業務上の災害に対する補償内容
- 私傷病時の休職制度
具体的な規定案としては「業務上の災害により休業した場合、労災保険給付に上乗せして平均賃金の20%を会社が補償(※あくまでも一例)」などが挙げられます。加えて休職期間中の待遇も明確にしておきましょう。
これらの規定は、従業員との契約の基礎となる大切な内容です。従業員が安心して働ける環境づくりのため、丁寧な作成を心がけましょう。
また、近年増加しているメンタルヘルス不調による休職にも対応できるよう、柔軟な制度設計が求められます。
表彰・制裁関係
従業員のモチベーション向上と職場秩序の維持のため、以下の点を明記してください。
- 表彰の種類と基準
- 懲戒処分の種類と事由
- 懲戒処分の手続き
「業績向上に顕著な功績があった従業員に対し、年度表彰を行う」などの規定は従業員のモチベーションにつながるでしょう。一方で懲戒処分については、具体的な事例を挙げて明確にすると、従業員の自律した行動につながります。
表彰制度は従業員のやる気を引き出す要素なので、金銭的な報酬だけでなく、社内での認知度を高める工夫も効果的でしょう。
退職手当関係
退職手当は従業員の長期勤続意欲を高める制度です。規定には以下の点を明記しましょう。
- 支給対象者の条件(勤続年数など)
- 算定方法(基本給の何か月分など)
- 支給時期
- 自己都合退職と会社都合退職の違い
以上をもとに、「勤続3年以上の正社員に対し、勤続年数×基本給×0.5か月分を支給」と、退職金の規定を定めましょう。また、功労金の支給基準も定めておくのも案の1つです。
また、会社の規模や業種によって、退職手当の必要性や内容が異なる場合があります。自社の実情に合わせて、適切な内容を選択しましょう。中小企業では、退職金制度の導入が困難な場合もあるため、中小企業退職金共済制度の活用を検討するのも一案です。
その他
事業場の労働者全員に適用されるルールとして、以下の点も考慮しましょう。
- 服務規律(遅刻・早退の取り扱い、職場内の禁止事項など)
- 個人情報保護に関する規定
- ハラスメント防止に関する規定
- 副業・兼業に関する規定
たとえば、「セクハラ、パワハラ、マタハラなどのハラスメント行為は厳禁とし、違反した場合は懲戒処分の対象とする」といった具合で明記してください。
これらの規定を設けることで、職場環境が整い、労使間の信頼関係が深まります。ただし、規定を作るだけでなく、従業員への周知と適切な運用も大切です。定期的に内容を見直し、社会情勢や法改正に合わせて更新することも忘れないようにしましょう。
就業規則の変更について
就業規則の変更は、労働条件の見直しや法改正への対応など、さまざまな理由で必要になります。変更の際は、従業員の利益を考慮しつつ、適切な手続きを踏むことが重要です。
まず、変更内容を明確にし、その理由を従業員に説明してください。賃金や労働時間など重要な事項を変える場合は特に慎重な対応が求められます。
次に従業員の過半数代表の意見を聴取します。これは法律で定められた手続きです。意見を十分に聞き、可能な限り合意形成を図りましょう。
そして、変更した就業規則を労働基準監督署に届け出ます。この手続きを怠ると、変更が無効になる可能性があるので注意が必要です。
なお、就業規則の不利益変更には特別な配慮が必要です。変更に合理性があり、労働者に不利益を強いる程度が低いことが求められます。
就業規則の変更は労使関係に大きな影響を与えるため、慎重かつ丁寧な対応を心がけましょう。
就業規則の周知について
就業規則の周知は、労使間のトラブルを防ぎ、円滑な職場運営を実現するために不可欠です。労働基準法では、使用者に就業規則の周知義務を課しています。
具体的な周知方法には、以下のような選択肢があります。
- 事業場の見やすい場所への掲示
- 書面を労働者に交付
- 磁気ディスクなどの電子媒体に記録し、各労働者が閲覧可能な状態にする
特に、新規採用時には就業規則の内容を丁寧に説明することが大切です。賃金、労働時間、休暇など、重要な労働条件を明確に伝えましょう。
また、就業規則を変更した場合も、速やかに従業員に周知する必要があります。変更点を分かりやすく説明し、質問や意見を受け付ける機会を設けましょう。年に一度、全従業員を対象とした研修を実施するなどの方法が考えられます。
就業規則作成支援ツールの使い方
厚生労働省では、就業規則作成支援ツールを提供しています。このツールを使えば、法令に準拠した就業規則を効率的に作成することが可能です。使い方について順を追って解説します。
- ツールへのアクセスとユーザー登録
- 基本情報の入力
- 目次の作成と編集
- 各章・条の内容作成
- 内容の確認と保存
- PDFファイルの作成と印刷
- 労働基準監督署への届出
まず、厚生労働省の「スタートアップ労働条件」サイトにアクセスします。

トップページの「就業規則作成支援ツールはこちら」ボタンをクリックすると、ログイン画面に移動します。初めての方は「ユーザー登録して使いたい方」を選択し、必要事項を入力して登録しましょう。
ログイン後、新規作成を選択すると基本情報の入力画面が表示されます。

ここでは、会社の業種や従業員数などを入力します。この情報に基づいて、適切な就業規則のひな形が提示されます。
基本情報を入力すると、就業規則の目次が自動生成されます。

この画面では、章や条の追加、削除、順序変更が可能です。たとえば、「賃金」や「労働時間」など、重要な項目を適切な位置に配置できます。
目次の各項目をクリックすると、詳細な内容を入力する画面に移ります。

ここでは、モデル就業規則の文例が表示されるので、それを参考に自社の実情に合わせて編集しましょう。労働時間や休暇、退職に関する規定など、従業員の権利に関わる重要な事項を丁寧に記載してください。
各項目の入力が終わったら、「保存」ボタンを押します。入力内容にエラーがないか確認し、問題がなければ保存されます。全ての章・条の作成が完了するまで、この作業を繰り返します。
全ての入力が終わったら、「PDF作成」ボタンをクリックします。
なお、会員登録をしないで作成すると保存ができないので、保存しながら使いたい場合は会員登録が必須です。

作成された就業規則のPDFファイルがダウンロードされるので、内容を最終確認し、印刷します。
最後に印刷した就業規則に、「就業規則(変更)届」と「意見書」を添えて、管轄の労働基準監督署に届け出ると手続きは完了です。
就業規則作成支援ツールの最大のメリットは、法令に準拠したモデル就業規則をもとに作成できる点です。しかし、自社の特性を反映させることも大切です。独自の福利厚生制度や業界特有の労働条件があれば、それらを適切に盛り込みましょう。
※上記に掲載されている情報は、投稿時点のものです。状況の変化により、内容が変更される可能性がございますので、あらかじめご了承ください。
まとめ
就業規則は労働条件の明確化と労使間のトラブル防止に必要です。本記事では、必須項目や推奨項目、変更・周知の方法、作成支援ツールの使い方まで、幅広く解説しました。
しかし、重要なのは、就業規則をその職場の事業に合った内容にすることです。法令遵守は大前提ですが、同時に自社の特性や業界の慣行、従業員のニーズを反映させることが大切です。
定期的な見直しと更新を行い、常に実態に即した内容を維持しましょう。適切な就業規則は、従業員の権利を守り、会社の発展を支える基盤となります。
本記事を参考に、自社に適する就業規則を作成しましょう。