従業員の減給は労働基準法で厳しく規制されており、安易に行うと違法となる可能性があります。
本記事では、従業員を減給させても違法にならないケースや注意点などを解説しています。
1.減給とは?上限額も解説
減給や、上限額、懲戒処分から減給の計算方法まで以下で詳しく紹介します。
1.1 減給とは
従業員の減給とは、従業員が会社規則に違反した場合や、業務成績が著しく悪い場合などに懲戒処分として行われることがあります。
減給処分は、会社側が一方的に行うことはできません。
双方が合意した上での処分でないと労働基準法違反となり、会社側に責任が問われる可能性があります。
1.2 懲戒処分として減給の上限が定められている
労働基準法で定められている減給の上限については次の通りです。
・1回の減給額の上限は5,000円を超えてはいけない
・1賃金の支払期における減給総額が賃金の1/10を超えてはいけない
・上限は減給の懲戒処分のみ適用となる
従業員に対して会社は、法令に則った適切な懲戒処分を行う必要があり、減給以外にも懲戒処分には戒告、訓告、降格、出勤停止、解雇などもあります。
1.3減給の計算方法
減給の主な上限額は、平均賃金の1日分の半額を超えてはならず、賃金支払期における1/10を超えてもいけません。
例えば、平均賃金が20万円の場合の1回の減給額は、20万円÷20日×0.5=5,000円となり、総支給額は19万5,000円です。
平均賃金は原則として、減給処分の直前の賃金締切日から遡って3ヶ月間に支払った賃金の総額を、その期間の総日数から引いた金額とされています。
具体的な計算方法は次の通りです。
平均賃金=(過去3ヶ月間の賃金総額)÷(過去3ヶ月間の総日数)
ただし、この計算方法は従業員が3ヶ月以上勤務している場合に適用されるもので、3ヶ月未満の場合や賃金支払日が毎月異なる場合などは計算が異なるケースもあります。
2.減給が可能なケース
減給が可能なケースはいくつかの事由によって認められるケースがあります。
今回はその中でも法律に基づいたケースと、業績悪化による減給のケース、人事評価での減給ケースについてピックアップしました。
2.1 法律に基づく減給の正当な理由
減給が可能なケースは、労働基準法で定められた範囲内で行う必要があります。
具体的なケースだと次のいずれかが考えられます。
・就業規則に違反した場合
・業務成績が著しく悪い場合
・会社の業務に支障をきたした場合
労働基準法第91条では、減給の限度について規定しているため労働契約に基づく内容かどうかについては直接触れていません。
しかし、懲戒事由に該当する場合のみ、合法的に実施できます。規定に従って適正に行わなければ、従業員側から異議を唱えられる可能性があるため、慎重に進める必要があるのです。
2.2 業績悪化による減給のケース
業績悪化による減給は、経営状況の改善策として減給が検討されることがあります。
ただし、労働基準法では減給において厳しい制限が設けられており、安易な減給は違法となる可能性があります。
製造業を営む某社は、原材料価格の高騰と需要の減少により、業績が悪化しました。経営陣は会社存続のためにはコスト削減が不可欠と判断し、全従業員の賃金を10%減額することにしたのです。
労働法91条において減給は「就業規則に定められた懲戒事由に基づく場合」に限るとされています。業績悪化は一般的に懲戒事由には該当しないため、某社の減給は労働基準法に違反する可能性が高いでしょう。
業績悪化の場合は、次のいずれかの対応が良いとされます。
・一時的な賃金カット
減給ではなく一時的な賃金カットを導入し、業績回復後に賃金を元に戻すことは認められます。
・休業
労働基準法に基づいた休業制度を利用し、賃金を減額せず休業させる方法が良しとされます。
・人員の削減
人権削減が必要な場合は、労働基準法に基づいて解雇手続きを行うことができます。
・労働時間の短縮
労働時間を短縮することで人件費の削減が見込めます。
2.3人事評価に基づく減給
人事評価に基づく減給は従業員のモチベーションや士気を低下させる恐れがあるため、慎重に実施する必要があります。
あくまでも従業員の能力や業績を評価するための手段である人事評価により減給することは、労働基準法に違反する可能性もあります。職務内容と等級、及び給与を連動させた「職務等級制度」の運用をされていることが大切です。
人事評価に基づいて減給を行う場合は、従業員との合意の上で減給を行う場合や、就業規則に減給に関する規定が定められているかどうかを確認しましょう。
3.減給を行う手続き
減給を行う手続きはいずれも規定の確認と整備、従業員の納得が必要です。
法的手続きを経て減給行う順番も、違反にならないよう丁寧に確認してみましょう。
3.1 減給に関する規定の確認と整備
減給をする場合は、労働基準法に基づいた適切な手続きと根拠が必要になります。減給に関する規定の確認と整備は、従業員とのトラブルを回避し、会社にとってより良い労働環境を構築するために不可欠です。
次の手順により減給を行うことができます。
1.現行規定の確認
まずは、現在の就業規則や労働協約に減給に関する規定がどのように定められているかを徹底的に確認しましょう。
・減給事由:就業規則違反や、業績不振など減給が認められる具体的な事由が明記されているかの確認
・減給の範囲:減給の幅や期間、減給の回数に関する制限などが定められているかを確認
・減給の手続き:減給を行う前に従業員への通知方法、異議申し立て方法、減給に関する説明義務などが定められているかを確認
2.規定の整備
現行規定に不足がある場合や、時代に合わせて見直す必要がある場合は、以下の点を考慮して規定を整備しましょう。
・減給事由の明確化:可能な限り具体的な事由を列挙する必要がある
・減給範囲の合理化:労働基準法違反にならない合理的な範囲を設定する
・減給手続きの明確化:従業員の通知方法を明確に設定することでトラブルの回避になる
・従業員への周知徹底:従業員が減給に関する規定を遵守できるように配慮する必要がある
3.減給の実施
減給を実際に行う際は弁護士や社労士へ相談しましょう。
減給に関する規定の確認や整備は、労働基準法や判例などを深く理解する必要があるため、専門知識が求められます。
3.2 従業員との話し合いと合意形成
まずは減給を実施する目的や必要性について話し合いをして、従業員からの納得を得ましょう。
・減給の理由を明確にすること
会社側の立場から減給を行う明確な理由を具体的に説明できるように準備しておく
・減給の範囲と基準を明確にすること
減給の幅、期間と対象となる従業員を明確に定め、給与基準を事前に説明する
・代替案の検討
従業員の給与水準を維持できる代替案を検討する
・話し合いの場と時間の設定
従業員が安心して意見を言えるように十分な時間と適切な場所を確保する
・話し合いの参加者
減給に関する決定権を持つものや、人事担当、労働組合など適切な話し合いができる配慮が必要
従業員にとって減給は大きな不利益となるため、企業は従業員との十分な話し合いと合意形成を図ることが重要です。一方的な決定はモチベーションを下げるだけでなく離職、あるいは労働紛争につながる可能性もあります。
3.3 法的手続きを経て減給を行う
労働契約法や労働基準法など関連法令を遵守し、正当な理由に基づいて行う必要があります。
減給を行う場合、以下のいずれかの法的根拠を準備しましょう。
・労働契約による変更
労働契約で、会社が一定の条件下で減給を行うことができる旨を明記している場合
・就業規則による変更
就業規則に減給に関する規定が設けられている場合
・労働協約による変更
労働組合と会社との間で締結された労働協約で、減給に関する規定が定められている場合
・懲戒処分
従業員の重大な違反行為に対して懲戒処分として減給を行う場合
・能力、成果に基づく減給
従業員の能力や成果が著しく低下した場合、能力や成果に基づいて減給を行う場合
法的手続きを踏んで減給を行う場合は、以下の通りに進めます。
1.減給の理由を明確にする
2.従業員への通知
3.従業員との協議
4.就業規則の変更
5.労働組合との協議
6.労働基準監督署への届出
4 減給は慎重に正当な方法で
上記の手順はあくまで一部のケースであるため、判断や実行は労働基準法に精通している社労士や弁護士に相談した上で行いましょう。
減給の対応が違法と判断された場合には、次のいずれかのデメリットが企業にもたらされます。
・従業員のモチベーション低下
・離職率の増加
・企業イメージの悪化
・労働争議の発生
・人材育成の悪影響
・企業文化の悪化
・企業の生産性低下
・企業の長期的な成長阻害
減給は従業員にとって大きな経済的負担となり、仕事に対するモチベーションを大きく低下させることもあります。会社からの信頼や評価を失ったと感じる要因になり得るのです。
また、従業員だけでなく、社会全体から企業イメージの悪化につながり、企業の評判を大きく損なうこともあります。
減給をきっかけに離職を検討する従業員が増えることもあるため、慎重に進めなくてはなりません。
5.まとめ
減給を実施してイメージ悪化を防ぎ、企業の長期的な成長につなげるには、法律に則った正当な理由と適切な手続きが不可欠でしょう。透明性と共感を重視した対策が必要です。
従業員とのコミュニケーションを強化し、質問や意見に丁寧に答えて不安や不満を解消した上で慎重にプロセスを進めていくことでトラブルを回避して、理解を深めた上で適切に行いましょう。