会社の成長に伴い従業員が増えると、新たな課題やトラブルが出てきたり、社会保険労務士(以下、社労士)に不満を感じたりと、多くの経営者がさまざまな課題に直面しています。そのなかで、適正な就業規則は従業員との良好な関係構築や労務トラブル防止の要です。
本記事では、就業規則の基本から業種別のポイント、パート・アルバイト・派遣社員の扱いまで、幅広く解説します。これから会社を設立する方や、従業員が10人を超えそうな経営者の方などは、ぜひ参考にしてください。
就業規則とは
就業規則は、会社が従業員の労働条件や職場のルールを定めた文書です。また、服務規律や懲戒処分などの職場秩序に関する事項も含まれます。加えて従業員が10人以上の企業(事業場)では、作成と労働基準監督署への届出が義務付けられています。
まずは就業規則を定める目的を解説していきます。
就業規則を定める目的
就業規則には、主に3つの重要な目的があります。これらの目的を達成することで、健全な職場環境の構築につながります。以下、それぞれの目的について解説していきます。
労働条件の明確化
就業規則の第一の目的は、労働条件を明確にすることです。給与、労働時間、休日、休暇などの基本的な労働条件を明文化します。
その結果、従業員は自分の権利や義務を正確に理解できます。加えて労働条件が明確になると、従業員の不安や疑問も減るでしょう。また、会社側も従業員に対する責任を明確に認識できるようになります。
会社の統一的な運営
就業規則の第二の目的は、会社の統一的な運営を可能にすることです。なぜなら、全従業員に適用される共通のルールを設けることで、公平性を確保できるからです。
さらに、部署や個人による扱いの差を最小限に抑え、組織全体の秩序を維持します。また、新入社員の教育や人事異動の際にも、一貫した対応が可能です。
このような統一的な運営は、従業員の信頼感を高め、業務効率の向上にもつながるでしょう。
労働基準法違反を防ぐ
就業規則の第三の目的は、就業規則を定めることで、労働基準法違反のリスクを軽減できます。そのため、企業は法令に準拠した内容を明文化し、従業員に周知することが求められます。
特に、労働時間や休日、賃金に関する規定は慎重に作成する必要があります。また、定期的な見直しを行い、法改正に対応することも大切です。
労働基準法を遵守することで、従業員の権利を守り、労使トラブルを防げます。
労働者人数による区分
就業規則の作成義務は、企業が雇用する労働者の人数によって決まります。
大きく分けて、10人以上の労働者を雇用する企業と10人未満の企業で区別されます。
この区分は、企業の規模や管理体制の違いを考慮して設けられています。労働者の権利を守りつつ、小規模事業者の負担にも配慮した制度設計といえるでしょう。
それでは、それぞれの区分について詳しく解説していきます。
常時10人以上の労働者を使用している企業
常時10人以上の労働者を雇用する企業には、就業規則の作成が義務付けられています。この規定は、労働基準法第89条に明記されています。
また、「常時」とは、臨時や季節労働者を除いた通年の平均的な人数を指します。
パートタイムや契約社員も含めて計算するため、注意が必要です。
さらに、労働基準法第89条では、就業規則に記載すべき事項も定められています。労働時間、賃金、退職に関する事項などが必須項目として挙げられます。
あわせて、作成した就業規則は労働基準監督署への届出も必要です。従業員の過半数代表の意見書を添付する必要もあります。
10人以上の企業に作成義務を課す理由は、労働者を保護する目的があるためです。
ある程度の規模がある企業では、労働者を保護するために、労働条件を明確にする必要性が必然的に高まります。また、労使間のトラブルを未然に防ぐ効果も期待できます。
常時10人未満の労働者を使用している職場
常時10人未満の労働者を雇用する企業には、就業規則の作成義務はありません。
作成が禁止されているわけではなく、自主的に作成することは可能です。むしろ、小規模企業でも就業規則を作成することをおすすめします。
就業規則がなくても、労働条件は労働契約で個別に定めることができます。
ただし、個別契約では従業員間で条件が異なる可能性があります。公平性を保ち、トラブルを防ぐためにも、就業規則の作成は有効な手段といえます。
なお、小規模企業で就業規則を作成する際は、簡素化した内容でも構いません。基本的な労働条件や服務規律など、最低限必要な事項を盛り込みましょう。将来的な事業拡大を見据えて、早めに整備しておくのもよいでしょう。
就業規則が適用される労働者の範囲
就業規則は、原則としてすべての従業員に適用されます。正社員はもちろん、パートタイムや契約社員、アルバイトも対象です。つまり、雇用形態や勤務時間の長短に関わらず、同じ職場で働く労働者全員に適用されるのです。
ただし、管理職や役員については、一部の規定が適用されない場合があります。たとえば、労働時間管理に関する規定は、管理職には適用されないことが多いでしょう。
また、派遣社員は、派遣元の就業規則が適用されるのが一般的です。
就業規則の適用範囲を明確にすることで、公平な職場環境を作ることができます。
従業員の立場や雇用形態によって不当な差別が生じないよう注意が必要です。適用範囲を明記し、全従業員に周知して、必要なときにいつでも確認できるようにすることが重要です。
就業規則の効力
就業規則は、労使双方を拘束する強い法的効力を持ちます。適切に作成され、従業員に周知された就業規則は、労働契約の一部です。つまり、雇用主も従業員も、就業規則に定められた内容を守る義務があるのです。
ただし、就業規則の内容が法令や労働協約に反する場合は、その部分は無効となります。また、個別の労働契約で就業規則よりも労働者に有利な条件が定められている場合は、その個別契約が優先されます。
加えて就業規則の変更には、原則として従業員の同意が必要です。ただし、変更が合理的で、周知手続きを適切に行えば、同意なしでも変更可能です。
就業規則の効力は強力ですが、従業員の権利を不当に侵害してはいけません。公平性と合理性を保ちつつ、適切に運用することが重要です。
モデル就業規則の利用とひな形について
モデル就業規則とそのひな形は、就業規則作成において便利です。これらを上手に活用することで、法令に準拠した就業規則を効率的に作成できます。
特に就業規則作成の経験が少ない企業や人事担当者にとって、有用なツールです。
モデル就業規則とは
モデル就業規則は、厚生労働省が提供する就業規則のひな形です。労働基準法をはじめとする労働関係法令に準拠した内容となっています。具体的には、基本的な労働条件や服務規律などが、分かりやすく記載されています。
また、モデル就業規則は定期的に更新されているため、参考にすることで法令違反のリスクを低減できます。
モデル就業規則のひな形
モデル就業規則のひな形は、就業規則作成の出発点として活用できます。まず、ひな形をダウンロードし、自社の状況に合わせて修正していきます。不要な項目は削除し、必要な項目は追加するなど、柔軟に対応しましょう。
ひな形の使用方法は、以下のステップで進めるとよいでしょう。
- 最新のひな形をダウンロードする
- 自社の基本情報(社名、所在地など)を入力する
- 各条項を読み、自社の実情に合わせて修正する
- 不要な項目を削除し、必要な項目を追加する
- 法令との整合性を確認する
- 社内で内容を検討し、必要に応じて専門家に相談する
ひな形は、厚生労働省のウェブサイトで公開されています。「モデル就業規則」で検索すると、最新版のPDFファイルが掲載されているので、定期的に確認して最新のものを使いましょう。厚生労働省が公開しているモデル就業規則は、外国版もあるので、外国人労働者を雇う場合にも参考にできます。
参考:厚生労働省
また、モデル就業規則のひな形を活用する際は、自社の特性を十分に考慮することが大切です。業種や企業規模、従業員の構成などによって、必要な規定は異なります。会社の方針や文化を反映させることも重要です。
このようにひな形をそのまま使用するのではなく、自社版にカスタマイズすることでより自社に則した就業規則の作成が可能です。必要に応じて、社会保険労務士や弁護士などの専門家に相談するのもよいでしょう。
就業規則に記載義務のある内容とは?
就業規則には、法律で定められた記載義務のある項目があります。これらの項目を適切に盛り込むことで、労使間のトラブルを防ぎ、円滑な職場運営が可能になります。
また、記載すべき内容は、その重要度によって3つのカテゴリーに分類されます。「絶対的必要記載事項」「相対的必要記載事項」「任意的記載事項」の3つです。
ここでは、就業規則に記載すべき内容を3つのカテゴリーに分けて解説します。
絶対的必要記載事項
絶対的必要記載事項は、就業規則に必ず記載しなければならない項目のことです。これらの項目が欠けていると、就業規則として認められない可能性があります。
主な絶対的必要記載事項には、以下のようなものがあります。
- 労働時間に関する事項(始業・終業時刻、休憩時間など)
- 賃金に関する事項(賃金の決定方法、計算方法、支払方法など)
- 退職に関する事項(退職理由、手続き、解雇の事由など)
参考:厚生労働省
これらの項目は、従業員の労働条件の根幹を成すものです。明確に記載することで、労使間の認識の齟齬(そご)を防ぎ、トラブルを回避できます。
特に賃金や労働時間に関する事項は、従業員の生活に直結するため、慎重に記載しましょう。
相対的必要記載事項
相対的必要記載事項は、該当する制度がある場合に記載が必要となる項目です。つまり、その制度を採用している企業のみ、記載する義務があります。
主な相対的必要記載事項には、以下のようなものがあります。
- 退職手当に関する事項(適用範囲、計算方法、支払方法など)
- 臨時の賃金や最低賃金額に関する事項
- 食費や作業用品などの費用負担に関する事項
- 安全衛生に関する事項
- 職業訓練に関する事項
- 災害補償や業務外の傷病扶助に関する事項
- 表彰や制裁に関する事項
参考:厚生労働省
これらの項目は、企業の特性や方針によって採用の有無が異なります。該当する制度がある場合は、漏れなく記載してください。
任意的記載事項
任意的記載事項は、法律上の記載義務はありませんが、企業の判断で記載できる項目です。これらの項目を記載することで、より詳細な労働条件や職場のルールを定められます。
主な任意的記載事項には、以下のようなものがあります。
- 服務規律に関する事項(勤務態度、機密保持など)
- 福利厚生に関する事項(社宅、保養所の利用など)
- 休職に関する事項(休職事由、期間、復職条件など)
- 出張や転勤に関する事項
- 副業・兼業に関する事項
これらの項目を就業規則に入れると、企業の文化や方針を反映させられます。
ただし、従業員の権利を不当に制限するような内容は避けてください。適切な範囲で記載して、従業員との良好な関係構築に役立てましょう。
就業規則の作成から提出までを紹介
就業規則の作成は、適切な手順を踏むことで、法令に準拠し、従業員の権利を守るものが完成します。
ここでは、就業規則の作成から提出までの流れを解説します。
作成が義務付けられているか確認
まずは自社に就業規則の作成義務があるかを確認しましょう。先述のとおり、常時10人以上の労働者を雇用している企業には、作成義務があります。
ただし、10人未満の企業でも、自主的に作成することをおすすめします。また、従業員数は、パートタイムや契約社員も含めて計算する点に注意が必要です。
会社の労務体系を確認
次に自社の労務体系を確認します。なぜなら、業種や職種によって、必要な規定が異なる場合があるからです。
たとえば、シフト制の小売業と固定勤務の事務職では、労働時間の規定が異なります。自社の特性を踏まえ、適切な規定を盛り込むことが大切です。
法令の確認
関連する法令を確認し、最新の法改正に対応することも重要です。労働基準法をはじめ、労働安全衛生法、男女雇用機会均等法などが関係します。
法令に違反する内容を含む就業規則は無効となるため、慎重に確認しましょう。必要に応じて、社会保険労務士などの専門家に相談するのもよいでしょう。
規定内容の決定
就業規則に盛り込む内容を決定します。絶対的記載事項と相対的記載事項、任意記載事項があります。
以下の表に主な項目をまとめました。
【絶対的記載事項】
- 始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇 並びに交替制の場合には就業時転換に関する事項
- 賃金の決定、計算及び支払の方法、賃金の 締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項
- 退職に関する事項(解雇の事由を含む。)
【相対的記載事項】
- 退職手当に関する事項
- 臨時の賃金(賞与)、最低賃金額に関する事項
- 食費、作業用品などの負担に関する事項
- 安全衛生に関する事項
- 職業訓練に関する事項
- 災害補償、業務外の傷病扶助に関する事項
- 表彰、制裁に関する事項
- その他全労働者に適用される事項
【任意記載事項】
- 就業規則の適用範囲
- 応募・採用に関する事項
- 秘密保持や副業の取り扱い
参考:厚生労働省
自社の状況に応じて、必要な項目を選択し、詳細を決定していきましょう。
草案の作成
決定した内容をもとに、就業規則の草案を作成します。モデル就業規則を参考にしつつ、自社の実情に合わせて調整しましょう。
また、法令に準拠しているか、従業員にとって分かりやすい表現になっているかを確認します。専門用語は避け、できるだけ平易な言葉で記述することが大切です。
労働者代表からの意見を聞く
作成した草案について、労働者代表から意見を聞きます。これは法律で定められた手続きであり、省略することはできません。(労働基準法第90条1項)
労働者代表は、従業員の過半数で組織する労働組合がある場合はその代表者、ない場合は従業員の過半数を代表する者を選出します。また、意見を聞いた証拠として、意見書を作成してもらいましょう。
社内での最終承認
労働者代表の意見を踏まえ、必要に応じて草案を修正します。修正後の内容について、経営陣や人事部門で最終確認を行います。この段階で、法的な問題がないか、自社の方針と合致しているかを再度確認しましょう。
労働基準監督署への提出
完成した就業規則は、労働基準監督署に提出します。提出の際は、労働者代表の意見書も忘れずに添付しましょう。
提出後、内容に問題がなければ受理されます。問題がある場合は、修正を求められる可能性があるので、適宜、対応が必要です。
従業員への周知
就業規則が受理されたら、従業員に周知しましょう。周知方法には、社内掲示板への掲示、イントラネットでの公開、冊子の配布などがあります。
ただし、従業員が常時閲覧できる状態にすることが重要です。また、重要な変更点については、説明会を開催するのもよいでしょう。
就業規則作成時の基本的な注意点
最後に、就業規則作成時の注意点をいくつか挙げます。まず、法令に違反する内容を盛り込まないことが絶対条件です。
また、従業員に不利益な変更を行う場合は、十分な説明と合理的な理由が必要です。曖昧な表現は避け、具体的かつ明確な記述を心がけましょう。
定期的な見直しも重要で、法改正や社内制度の変更に応じて更新する必要があります。
業種ごとに作成時のポイントが異なる
就業規則は、業種によって重視すべきポイントが大きく異なります。各業界の特性を理解し、適切な規定を盛り込むことが重要です。
ここでは、主要な業種ごとの就業規則作成時のポイントを解説します。
医療業
医療業では、24時間体制の勤務が求められる場合が多くあります。夜勤や当直の勤務体系、それに伴う手当を明確に規定する必要があります。緊急呼び出し(オンコール)に関するルールも重要なポイントです。
特に医師については、2024年からの時間外労働の特例(年960時間まで)に対応した規定を追加する必要があります。
参考:医師の働き方改革
運輸業(トラック運送、バス、タクシー、鉄道など)
運輸業では、一般的な労働時間や休日規制とは異なる規定が必要です。特に長距離輸送に従事する従業員の労働時間管理には注意してください。また、運転手の休憩時間や連続運転時間の制限なども明確に定めましょう。
宿泊業・飲食業
宿泊業や飲食業では、シフト制勤務が一般的です。そのため、シフト変更のルールや深夜手当の支払方法を明確に規定しましょう。
それから、繁忙期(年末年始、GWなど)の特別な勤務体制に関する規定も盛り込んでください。また、残業時間が長くなりがちなため、健康管理や労働時間の適正化を明記しましょう。
建設業
建設業では、天候に左右される業務特性を考慮する必要があります。雨天中止時の待機や振替出勤に関するルールを定めましょう。
現場ごとに労働時間管理が異なる場合の取り扱いも明確にしてください。さらに、高所作業や重機運転などの安全衛生規定も重要なポイントです。
農林水産業
農林水産業では、季節による繁忙期があります。そのため、繁忙期の特別な労働時間規定(長時間労働や休日出勤)を設ける必要があります。
農作物や漁獲物の収穫・出荷時期に合わせた勤務体制も考慮しましょう。安全衛生に関する特別な注意点(農薬使用時や漁業中の安全対策など)も忘れずに規定してください。
IT業界
IT業界では、裁量労働制を採用する企業が多いため、裁量労働制の適用条件や、みなし労働時間を明確に規定しましょう。
また、深夜や休日のシステムトラブル対応のルールも明記してください。そのほか、過重労働防止のための健康管理(ストレスチェックの義務化など)も盛り込みます。
教育業(学校、塾、研修機関など)
教育業では、学校行事や試験期間中の特別な勤務時間規定が必要です。休日出勤の代休や振替休日に関するルールも明確にしましょう。残業が長期化しないような健康管理体制の明記も重要なポイントです。
警備業
警備業では、24時間勤務があるため、仮眠や休憩のルールを明確に定める必要があります。特殊な業務(VIP警護、現金輸送など)の手当規定も忘れずに記載してください。ほかにも、健康診断やストレスチェックの実施義務についても明記しましょう。
メディア・出版業
メディア・出版業では、締切前の特別な勤務形態が発生するため、その規定を設けましょう。また、裁量労働制や深夜勤務の手当の取り扱いも明確にします。過重労働を防止するための体制整備も重要なポイントです。
パート・アルバイトの就業規則について
パート・アルバイトの就業規則作成には、以下のポイントに注意が必要です。
- 正社員とは別の就業規則を作成するか検討
- 労働条件の明確化
- 均等・均衡待遇の確保
- 有期労働契約の更新基準
- 社会保険の適用条件
- 正社員への転換制度
パート・アルバイトの就業規則は、正社員とは異なる配慮が必要です。まずは、正社員とは別の就業規則を作成するかどうかを検討しましょう。別に作成する場合は、正社員の就業規則との整合性に注意が必要です。
また、労働条件の明確化は特に重要です。勤務時間、休日、給与計算方法などを具体的に記載しましょう。曖昧な表現は避け、誰が読んでも理解できる内容を心がけてください。
さらに近年では、均等・均衡待遇の確保が法律で義務付けられています。正社員との不合理な待遇差を設けないよう、慎重に規定を作成しましょう。特に賞与や退職金、各種手当の取り扱いには注意が必要です。
参考:厚生労働省
それから、有期労働契約の更新基準も明確にする必要があります。更新の有無や判断基準、回数の上限などを具体的に記載すると、雇止めに関するトラブルを未然に防ぐことが可能です。
社会保険の適用条件も忘れずに記載しましょう。短時間労働者への社会保険適用拡大に伴い、条件が変更されている場合があります。最新の法令を確認し、適切な内容を盛り込んでください。
最後に正社員への転換制度について触れておくとよいでしょう。キャリアアップの機会を提供することで、モチベーション向上にもつながります。転換の条件や手続きを明確に示すことが大切です。
派遣社員の就業規則について
派遣社員の就業規則作成時には、以下のポイントに注意しましょう。
- 派遣元と派遣先の役割分担の明確化
- 労働条件の明示
- 派遣期間の上限と派遣先への直接雇用の申込義務
- 同一労働同一賃金への対応
- 派遣先の就業規則の適用範囲
- 安全衛生管理責任の所在
派遣社員の就業規則は、通常の雇用形態とは異なる特殊性を持ちます。これは派遣元と派遣先の2つの会社が関わるため、複雑な面があるからです。しかし、適切な就業規則を作成することで、トラブルを未然に防ぐことができます。
まずは派遣元と派遣先の役割分担を明確にすることが重要です。労務管理や指揮命令の範囲について具体的に記載し、責任の所在を明確にしましょう。
また、労働条件の明示も欠かせません。給与、労働時間、休日などの基本的な労働条件を詳細に記載します。特に派遣先ごとに条件が異なる場合は、その旨を明記しておくとよいでしょう。
それから、派遣期間の上限と派遣先への直接雇用の申込義務についても触れる必要があります。法律で定められた期間制限を遵守し、直接雇用の機会を適切に提供しましょう。
同一労働同一賃金への対応も必要です。派遣先の正社員との不合理な待遇差を設けないよう、慎重に規定を作成します。特に賞与や各種手当の取り扱いには注意が必要でしょう。
参考:厚生労働省
派遣先の就業規則の適用範囲についても明確にしておきましょう。服務規律や安全衛生規定など、派遣先のルールに従うべき事項を具体的に示すと、派遣社員が働きやすい環境を整えられます。
最後に、安全衛生管理責任の所在を明確にすることも大切です。派遣元と派遣先のどちらが責任を負うのか、具体的に記載しましょう。健康診断の実施や労働災害への対応など、重要な事項を漏れなく盛り込みます。
派遣社員の就業規則は、労働者派遣法をはじめとする関連法令に準拠する必要があります。最新の法改正に注意を払い、定期的な見直しを行うことが大切です。
作成した就業規則はどこに保管する?
就業規則の保管では、以下のポイントを押さえてください。
- 従業員が常時閲覧できる場所に保管
- 複数の保管方法を併用
- 電子化による保管も可能
- 最新版の管理と旧版の保存
- 個人情報保護への配慮
- 災害時のバックアップ対策
最も重要なのは、従業員が常時閲覧できる場所に保管することです。従来は、事務所や休憩室などに紙の冊子を置くことが一般的でした。しかし、現代では電子化による保管も認められています。
また、複数の保管方法を併用することをおすすめします。たとえば、紙の冊子を置きつつ、社内イントラネットにも掲載するなどです。そうすることで、従業員がアクセスしやすい環境を整えられるでしょう。
電子化による保管では、セキュリティにも配慮が必要です。パスワード保護や閲覧権限の設定など、適切な措置を講じましょう。ただし、セキュリティを理由に閲覧を不当に制限してはいけません。
そして、最新版の管理と旧版の保存も重要なポイントです。就業規則を改定した場合、最新版を確実に周知する必要があります。同時に、旧版も一定期間保存しておくと、トラブル時の証拠として役立つでしょう。
個人情報保護への配慮も忘れてはいけません。就業規則には、給与や懲戒に関する規定など、センシティブな情報が含まれます。部外者の目に触れないよう、適切な管理を心がけましょう。
最後に災害時のバックアップ対策も考えておく必要があります。火災や地震などで原本が失われても、すぐに復元できるよう準備しておきます。クラウドストレージの活用も、有効な対策の1つといえるでしょう。
就業規則の適切な保管は、労使間のトラブル防止に役立ちます。従業員が必要なときにすぐ確認できる環境を整えることで、円滑な職場運営が可能になります。定期的に保管状況を確認し、必要に応じて改善を図ることが大切です。
まとめ
常時10人以上の従業員を雇用する会社は、就業規則を作成する義務があります。就業規則は単なる形式的な文書ではなく、会社と従業員の関係を円滑にする重要な書類です。そのため、業種や雇用形態に応じた適切な内容を盛り込み、定期的に見直すことが大切です。
作成や改定の際は、社労士などの専門家のアドバイスを受けることも検討しましょう。本記事を参考に、自社の就業規則を見直してみてはいかがでしょうか。